~ 第3章 ~
少し個人的な話から始めたい。
学生時代、私は大学図書館でアルバイトをしていた。
業務は、利用案内や書架整理など、ごく一般的なものだ。
ただ、その中でよく耳にしていたのが、
「どうすれば図書館の利用者を増やせるのか」
という、長年続く課題だった。
個人的にも試行錯誤はしたものの、当時は明確な答えを出せなかった。
しかし、時が経った今、改めて考えてみると、
一つの整理ができるように思う。
大学図書館を利用する学生は、
大きく分けて次の三つに分類できるのではないだろうか。
一方で、現在多くの大学図書館が行っている施策はどうだろうか。
イベントを増やす。
SNSを活用する。
カフェを併設する。
どれも間違いではないし、一定の効果はあるだろう。
実際、来館者数は増えるかもしれない。
だが、少し視点をずらして考えてみたい。
一時的に人が集まることと、
大学図書館の価値が伝わることは、
必ずしも同じではない。
ここで、そもそもの問いに立ち返りたい。
「本屋」と「大学図書館」は、何が違うのだろうか。
本屋は、完成された知識を手に入れる場所だ。
欲しい答えがあり、それを探し、購入する。
常に新しい本や情報が並び、分かりやすい形で提供されている。
一方、大学図書館はそうではない。
学術書や専門書、古い文献など、
必ずしも「今すぐ役立つ答え」が書かれているとは限らない本が並ぶ。
新しい情報の流入も、本屋ほど多くはない。
その結果、
「それならスマートフォンやAIで十分ではないか」
と感じる学生が増えているのも、自然な流れだろう。
確かに、AIによって知識を得ること自体は、格段に容易になった。
だが一方で、
AIは、問いがなければ何も返すことができない。
何を知りたいのか。
何を疑問として立てるのか。
どこに違和感を覚えるのか。
その出発点は、今も人間側に委ねられている。
だからこそ、
大学図書館には
「答えを得る場所」ではなく、
「問いが生まれる場所」としての価値が
これまで以上に求められているのではないだろうか。
そこで、今回思い付いたアイデアがある。
そもそも大学とは、研究の最先端が集まる場所だ。
多様な分野の研究者が同じ空間に存在する、
ある種とても面白い集団とも言える。
その中で、
「研究の基礎となった本」を紹介する
という取り組みはどうだろうか。
他分野の研究だからといって、
最初から強い興味を持つ学生は多くないかもしれない。
そして、
「こんな研究が行われている」
「この分野は、こういう本から始まっている」
と知るだけで、
小さな好奇心が芽生える学生は必ずいる。
その好奇心は、
次はどんな本があるのか、
他の分野では何が行われているのか、
と連鎖的に広がっていく。
そうした姿勢に触れられる場として、
大学図書館は極めて相性が良い。
自分にはない視点に出会うこと。
知らなかった問いに触れること。
それは思考の枠を広げ、
学びそのものを加速させる体験につながる。
この大学図書館の考え方を、
さらに広げてみるとどうだろうか。
市民図書館もまた、
利用者の減少や存在意義の見直しといった
同じような課題に直面している。
そして、同じように
本屋も閉店が相次ぎ、
かつての賑わいを失いつつある。
ここで一つのアイデアが浮かぶ。
市民図書館が、地域の大学と連携して、
「どの大学で、どのような研究が行われているか」
という情報を市民に届ける役割を担うのはどうだろうか。
研究の最前線とは何か。
どんな問いが立てられ、
どんな本が基礎となっているのか。
それを知ることで、
市民の中にも新しい好奇心が生まれる。
そして、その流れを受けて、
本屋では関連する新刊や専門書が並ぶ。
市民図書館で興味を持った人が、
本屋でさらに深い知識を求める。
本屋で手に取った本が、
市民図書館での次の問いにつながる。
こうした循環が生まれれば、
図書館も本屋も、
再び知的な拠点としての役割を取り戻せるのではないだろうか。
もちろん、これだけで全てが解決するわけではない。
だが、閉館していく図書館や本屋を前にして、
「人が来ない」「需要がない」と諦めるのではなく、
まだ誰も見ていない余白に目を向けることで、
新しい可能性は必ず見えてくる。
大学図書館、市民図書館、本屋。
それぞれが持つ強みを組み合わせ、
知的好奇心の連鎖を生み出す。
そんな仕組みが、
これからの時代に求められているのかもしれない。
振り返ってみると、
このアイデアは「問題を解決した」というより、
一度距離を取ったことで、
大学図書館が抱えている問題のマップが
ようやく見えてきた、
そんな感覚に近い。
どこに山があり、どこが行き止まりで、
どこにまだ誰も踏み込んでいない余白があるのか。
その全体像を共有すること自体が、
次の一手につながるのではないだろうか。
問題を一度どかし、
斜めに進みながら、
全体のマップを把握していく。
そして、新しい視点から
まだ誰も気づいていない余白を見つける。
これが、このゲームが目指す
「問題解決の思考プロセス」なのです。
このアイデアを思い付いた後、
ただ頭の中に留めておくだけでは意味がない。
そう考え、
過去のつてを使って、
このアイデアをとある大学図書館に伝えた。
実際に形になるかどうかは、
まだ分からない。
だが、一つの大学図書館で小さく始まり、
それが市民図書館へ、本屋へと広がっていく。
そんな連鎖が生まれることを、
今は静かに願っている。
これもまた、
ソロワーズの盤面と同じだ。
一つ駒を動かせば、
全体のマップが変化し、
新しい道が見えてくる。
その先に何があるのか。
それは、まだ誰にも分からない。